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平成27(ワ)23087特許権侵害差止等請求事件

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平成27(ワ)23087特許権侵害差止等請求事件

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特許請求の範囲の訂正において実施可能要件、サポート要件違反による無効理由が存在し、非侵害。
訂正と無効理由の関係について参考になりました。

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第2 事案の概要
1 本件は,名称を「抗ウイルス剤」とする発明についての特許権(請求項の数
3。以下「本件特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1な
いし3の発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)を有
する原告が,①被告が譲渡,輸入又は譲渡の申出を行っている別紙物件目録記
10 載の製品(以下「被告製品」という。)は本件発明1の技術的範囲に属する,
②(①と選択的に)被告製品は原告による訂正後の本件特許(以下,訂正後の
特許請求の範囲請求項1ないし3の発明をそれぞれ「本件訂正発明1」ないし
「本件訂正発明3」という。)の本件訂正発明2及び3の技術的範囲に属する
と主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の譲渡,輸入
15 又は譲渡の申出の差止めを求めるとともに,同条2項に基づく被告製品の廃棄
を求め,さらに,不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に
基づき,実施料相当額16億円のうち1000万円及びこれに対する不法行為
の後の日(本訴状送達の日の翌日)である平成27年8月29日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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(1) 医薬の発明における実施可能要件
特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は「その発明
の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることが
できる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めると
ころ,この規定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明にかか
る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,
明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,
使用することができる程度のものでなければならない。
そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示さ
れることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効
量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができ
ないから,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書
の発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願
時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように
記載される必要がある。

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10 (オ) 以上の認定は本件優先日当時の技術常識に係るものであるが,その
ほぼ1年後の本件出願時にこれと異なる技術常識が存在したことを認め
るに足りる証拠はなく,本件出願当時における技術常識はこれと同様と
認められる。このことに加え,そもそも本件明細書には,本件特許化合
物を含めた本件発明化合物がインテグラーゼの活性部位に存在する二つ
15 の金属イオンに配位結合することによりインテグラーゼ活性を阻害する
2核架橋型3座配位子(2メタルキレーター)タイプの阻害剤であると
の記載はないことや,本件特許化合物がキレート構造を有していたとし
ても,本件出願当時インテグラーゼ阻害活性を有するとされていたヒド
ロキシル化芳香族化合物等とは異なる化合物であることなどに照らすと,
20 本件明細書に接した当業者が,本件明細書に開示された種々の本件発明
化合物が,背面の環状構造により配位原子が同方向に連立した2核架橋
型3座配位子構造(2メタルキレーター構造)と末端に環構造を有する
置換基とを特徴として,インテグラーゼの活性中心に存在する二つの金
属イオンに配位結合する化合物であると認識したと認めることはできな
25 い。

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ウ 出願審査段階における薬理試験結果について
原告は,本件特許化合物に含まれる4個の化合物については本件特許
の出願審査の段階において薬理試験結果が提出され(甲12),また,
12個の化合物については実際にインテグラーゼ阻害作用が確認されて
15 いるとして(甲13),本件発明1が実施可能要件を有することは裏付
けられていると主張する。
しかし,一般に明細書に薬理試験結果等が記載されており,その補充
等のために出願後に意見書や薬理試験結果等を提出することが許される
場合はあるとしても,当該明細書に薬理試験結果等の客観的な裏付けと
なる記載が全くないような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結果
等を考慮することは,特許発明の内容を公開したことの代償として独占
権を付与するという特許制度の趣旨に反するものであり,許されないと
いうべきである(知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10052
号・同28年3月31日判決参照)。

25 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,本件出願当時の技術常識及び本件明細書の記載を参酌して
も,本件特許化合物がインテグラーゼ阻害活性を有したと当業者が理解し得
たということもできない。
したがって,本件明細書の記載は本件発明1を当業者が実施できる程度に
5 明確かつ十分に記載したものではなく,本件発明1に係る特許は特許法36
条4項1号の規定に違反してされたものであるので,本件発明1に係る特許
は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきも
のである。

・・・

3 争点(1)イ(イ)(サポート要件違反)について
10 上記2で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細な説明に本件
発明1が記載されているとはいえず,本件発明1に係る特許は特許法36条6
項1号の規定に違反してされたものというべきである。
したがって,本件発明1に係る特許は特許法123条1項4号に基づき特許
無効審判により無効にされるべきものである。
15 4 争点(1)ウ(ア)(本件訂正による無効理由の解消の有無)について
(1) 上記2及び3において説示したとおり,本件発明1に係る特許は実施可能
要件違反及びサポート要件違反により無効にされるべきものであるから,原
告の本訴請求には特許法104条の3の各抗弁が存するものと認められる。
ところで,原告は,本件訂正による訂正の再抗弁を主張しているところ,
20 特許法104条の3の抗弁に対する訂正の再抗弁が成立するためには,①特
許庁に対し適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っていること,②当該
訂正が訂正要件を充たしていること,③当該訂正によって被告が主張してい
る無効理由が解消されること,④被告各製品が訂正後の特許発明の技術的範
囲に属すること,以上の各要件を全て充たしている必要がある。

25 本件において,被告は上記③及び④を争っているところ,このうち上記③
について検討する。
(2) 原告は,本件明細書の教示に接した当業者は,本件明細書に薬理データが
記載された化合物と同様に,本件訂正発明化合物1もインテグラーゼ阻害活
性を示すことを容易に理解できることになるから,上記(1)の各無効理由は
解消される旨主張する。
5 しかし,本件明細書には,本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害剤
として機能することを適切に裏付けるような薬理データ等は記載されていな
いのであって,本件訂正によっても,本件明細書の記載は,医薬としての有
用性を当業者が理解できるように記載されたものにはならない。
(3) これに対し,原告は,本件訂正発明化合物1に必須の化学構造は,本件明
10 細書に薬理データが記載された27個の化合物と極めて類似した構造を有し
ているから,当業者は本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害活性を示
すことを容易に理解できるなどと主張する。
しかし,前記2(3)イに説示したとおり,一般に,化合物の化学構造の類
似性が非常に高い化合物であっても,特定の性質や物性が全く類似していな
15 い場合があり,この点はインテグラーゼ阻害剤の技術分野においても同様と
解されるのであって,このことは本件出願当時の当業者にとっても技術常識
であったというべきである。
原告はこの点,原告の上記主張はドラッグデザインに基づくものであるな
どとも指摘するところ(甲76参照),確かに,何らかの生物活性を有する
20 複数の化合物が存在する場合,そのような活性を備える化合物における,部
分的な保存された構造を見出そうとする手法は,医薬品の開発の方向性を定
める一つの手法とはいえるものの,化合物に共通する部分構造以外の構造に,
生物活性に必要な構造が存在する可能性もあるし,逆に,生物活性を喪失さ
せるような構造も化合物に存在することがあり得るのであって,生物活性を
25 有すると目される複数の化合物に共通して見られる部分構造がある化合物に
おいて単に存在することをもって,直ちに当該化合物も必然的にその生物活
性を有するということはできないというべきである。
なお,原告は,本件訂正発明化合物1がインテグラーゼ阻害活性を示すと
する薬理データ(甲12,13,33)を引用するが,上記2(3)ウに説示
したとおり,本件の判断を左右するものではない。
5 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上によれば,本件訂正発明1はなお実施可能要件違反及びサポート要件
違反により無効にされるべきものであるから,本件訂正に係る原告の再抗弁
は,前記(1)で説示した③の要件を充たしていないということになる。
したがって,原告の主張する訂正の再抗弁は,その余の点について判断す
10 るまでもなく,理由がない。
5 争点(2)(本件訂正発明2及び3に係る特許権の侵害(争点(1)と選択的))
について
上記2及び4で説示したところに照らせば,本件明細書の記載は,本件訂正
発明2及び3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではな
15 く,本件訂正発明2及び3に係る特許は特許法36条4項1号の規定に違反し
てされたものであるから,同特許は特許法123条1項4号に基づき特許無効
審判により無効にされるべきものである。
また,上記3及び4で説示したところに照らせば,本件明細書の発明の詳細
な説明に本件訂正発明2及び3が記載されているとはいえず,本件発明2及び
20 3に係る特許は特許法36条6項1号の規定に違反してされたものというべき
であるから,同特許は特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無
効にされるべきものである。

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