平成27(ワ)23843特許権侵害差止等請求事件

2018-03-05

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平成27(ワ)23843特許権侵害差止等請求事件

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文言侵害に該当、被告の文言非侵害の主張、サポート要件違反と進歩性欠如の主張、先使用権の主張等々を認めず。
特許製品について、パンフレットの製品名を変えて同じ装置を製造販売すれば、どのような反論をしても、特許権侵害を免れません。
先使用権の発明の意義については参考になりました。

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第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防
止装置」とする発明に係る特許権(特許番号第3966527号。以下「本件
特許権」又は「本件特許」といい,特許請求の範囲請求項1,3及び4記載の
各発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明3」及び「本件発明4」といい,
これらを併せて「本件各発明」という。)を有する原告が,別紙物件目録1及
び2記載の「生海苔異物除去機」(以下,併せて「被告装置」という。)は本
件各発明の技術的範囲に属し,また,被告装置の部品である別紙物件目録3記
載の「固定リング」(以下「本件固定リング」という。)及び同4記載の「板
状部材」又は「ステンチップ」(以下「本件板状部材」という。)は本件各発
明の実施品に当たる被告装置の「生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)
に当たるから,被告らが被告装置,本件固定リング及び本件板状部材(以下,
併せて「被告製品」という。)の譲渡,貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出
をする行為は本件特許権を侵害する行為であると主張して,被告らに対し,以
下のとおり請求する事案である。

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争点(1)(被告装置(LS型)の製造,販売の有無)について
(1) 原告は,本件仮処分決定の対象となった被告装置(WK型)につき,全く
同じ構成でありながら,その製品名のみを「LS-R」,「LS-S」,
「LS-G」及び「LS-S」と変更されたもの(被告装置(LS型))が
製造,販売されていると主張する。
(2) そこで検討するに,渡邊機開の平成27年2月13日付けパンフレット
(甲19)には型名を「LS-R」,「LS-S」,「LS-G」及び「L
S-L」とする装置が掲載されており,また作成日不詳のパンフレット(甲
20の1・2)にも型名を「LS-S」及び「LS-G」とする装置が掲載
されている。しかるに,これらの各装置の写真は,明らかに,従前のパンフ
レット(甲4,甲5の1ないし4)における「WK-500」(「LS-R」
に対応),「WK-550」(「LS-S」に対応),「WK-600」
(「LS-G」に対応)及び「WK-700」(「LS-L」に対応)の写
真と同一であるものと認められる(型名のみ異なる。)。
そして,このうち型名を「LS-G」とするものについては,2台が平成
27年3月17日に渡邊機開から被告白石に販売され(甲17の1添付仕入
帳52丁),このうち1台は被告白石から第三者に転売されている(甲17
の2添付請求書6丁)。残り1台は被告白石により保管されていたところ,
これについては,被告白石での証拠保全の検証時に「機械3」として確認さ
れており,同検証の検証調書(甲17の1。以下「本件検証調書」という。)
添付の写真によれば,その環状固定板に板状部材が取り付けられているので
あって(同添付写真7ないし9丁),その構成は被告装置(WK型)と同一
である。
また,型名を「LS-S」とするものについては,被告白石作成の請求書
(甲17の2添付請求書9丁)によれば,被告白石は平成27年2月26日
に鶴商に対して「LS-S」を販売していると認められる。
以上によれば,被告装置(LS型)は,被告装置(WK型)の型名を変更
したにすぎず,その構成は被告装置(WK型)と同一であるというべきであ
る。
(3) 被告らの主張に対する判断
この点に関して被告らは,①本件検証調書の記載は検証結果を正しく反映
していない,②被告白石が鶴商に対して販売したのは「WK-550」であ
り,請求書に「LS-G」と表示されているのは誤りであると主張する。
しかし,上記①については,被告Aが説明していない内容が検証調書に記
載されているとは考え難く,また,機械3の写真についても同機械とは異な
る機械の写真が同調書に掲載されていることをうかがわせる証拠はない。
また,上記②については,被告らは「LS-G」との表示が誤っていると
主張するが,この表示が誤記であることをうかがわせる証拠は見当たらない。
したがって,被告らの上記主張は,いずれも採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,渡邊機開及び被告白石は,被告装置(WK型)のみならず,
これと構成を同じくする被告装置(LS型)についても販売等を行っていた
ものと認められるのであって,この被告装置(LS型)についても,被告白
石,被告B及び被告共立において,将来,その販売等がされるおそれがある
ものというべきである。

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争点(5)ア(乙5装置に係る事業に基づく渡邊機開の先使用権)について
(1) 特許法79条は,「特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明
をし,又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知
得して,特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をし
ている者又はその事業の準備をしている者は,その実施又は準備をしている
発明及び事業の目的の範囲内において,その特許出願に係る特許権について
通常実施権を有する。」として,いわゆる先使用権を規定する。
この規定の「実施又は準備をしている発明・・・の範囲」とは,特許発明
の特許出願の際に先使用権者が現に日本国内において実施又は準備をしてい
た実施形式に限定されるものではなく,その実施形式に具現されている技術
的思想すなわち発明の範囲をいうものと解されるから,先使用権の効力は,
特許出願の際に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでな
く,これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施
形式にも及ぶものと解するのが相当である(最高裁昭和61年(オ)第45
4号同年10月3日第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
そして,「発明」とは,自然法則を利用した技術的思想の創作をいうので
あるが(特許法2条1項),それは,一定の技術的課題(目的)の設定,そ
の課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の
目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであっ
て,発明が完成したというためには,その技術内容が,当該技術分野におけ
る通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができ
る程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることが必要である
と解される(前記最高裁昭和61年10月3日第二小法廷判決参照)。この
ことからすれば,先使用権の基礎となる「発明」についても,その技術内容
が抽象的な思想にとどまるものでは足りず,一定の技術的課題を解決するた
めの技術的手段がその効果を挙げることができる程度に具体的かつ客観的な
ものとして構成されているものでなければならないと解するのが相当である。

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